「自由研究的ビジネスのつくりかた」振り返り座談会/1日限りの文化祭「ほやほや POP UP -LIFE Beginning-!」を終えて

2026年4月から6月にかけて「Ma」で開催された「自由研究的ビジネスのつくりかた」は、クリエイターが主語を自分に取り戻し“受注型の仕事から一歩はみ出す”ための創業支援プログラム。27名の受講者が、これまで抱いてきた違和感や個人的な関心を出発点に、スモールプロジェクトをつくり出すことに取り組みました。
同年8月29日には、「ほやほや POP UP -LIFE Beginning-!」を開催。プログラムを通して考えたことを小さく試すために有志の受講者が開いた、文化祭のようなイベントです。今回は会場の様子をレポートするとともに、3名の受講者による振り返り座談会の内容をお届けします。プログラムを通して、どのような発見や変化があったのでしょうか。

1日限りの大人の文化祭

「ほやほや POP UP -LIFE Beginning-!」(以下、ほやほや POP UP)は、「自由研究的ビジネスのつくりかた」の受講者による1日限りの文化祭です。一般の来場者に向けて、プログラムを通じて企画したスモールプロジェクトを、展示や体験の提供、ワークショップやプレゼンテーションといったさまざまな形で紹介しました。

会場内は「よむ」「みる」「体験する」の3つのゾーンに分けられ、各ブースにはテーマに沿った選書、自主制作のZINEやアプリなど、オリジナリティのある作品が展示されていました。

「体験する」のコーナー。来場者も受講者が主催するワークショップに参加できる
受講者が選書した本が並ぶ「よむ」のコーナー

会場には、受講者の友人や家族などを中心に多くの人たちが訪れました。来場者とのコミュニケーションがあちらこちらで生まれ、和やかな雰囲気に包まれていました。

受講者たちには、プログラムで共にワークに取り組む以外にも自主的な相互インタビューや食事会、「ほやほや POP UP」の準備を通じて、強いつながりが生まれたといいます。お互いのブースを行き来し、これまで聞いていたアイデアがどんな形になったのかを目にして、感想を伝え合う姿も多く見られました。

受講者のプレゼンテーションに興味深そうに耳を傾ける来場者
ポスターや会場のサインも受講者たちが手掛けた

「自由研究的ビジネスのつくりかた」の受講者に起こった変化とは?

「ほやほや POP UP」の終了後は、受講者による座談会が開かれました。参加したのは、松野ライアンさん、うつみまゆみさん、綿本有里さんの3名。プログラムに参加したきっかけや、これからの展望、今後の受講希望者へのメッセージなどを話してもらいました。
聞き手はプログラムの企画者であり、メンターとしても受講者に伴走した酒井博基です。

酒井:「自由研究的ビジネスのつくりかた」に参加する前に考えていたことや、参加のきっかけをあらためて教えてもらえますか?

ライアンさん:「自由研究的ビジネスのつくりかた」の募集要項には、“プログラムの主な対象は、クライアントワークが多くて制約が多いと感じている人”とありました。僕は逆にとても自由な環境にいて、たとえるなら無重力の宇宙に浮いている感じです。ですから少し重力を感じる場所、つまり締切があったりと、少し制約のある環境に身を置いてみようと考えたのが応募の動機。同時に相談や発表の場、仲間もほしいと思っていました。

ハードウェアエンジニアから教育業界に転身したというライアンさん

酒井:人との出会いも求めていたのですね。うつみさんはいかがですか?

うつみさん:私は「自己解凍」がキーワードでした。というのも、出産してから最近までは、ひとまず自分のことは凍結して、家族をメインにした生活を送っていました。子どもの手が少しずつ離れてきて、自分のことを考える時間が増えてきたな、と感じ始めたときに目に飛び込んできたのが、募集要項の「主語を『自分』に戻すための3カ月間」というワード。「これだ!」と思い、申し込みました。

うつみさんは書籍の装丁なども手がけるグラフィックデザイナー

酒井:子育てがひと段落して、社会とのつながりを再構築するタイミングだったんですね。綿本さんもお子さんがいらっしゃいますね。

綿本さん:はい。息子はいま1歳で、想像していた以上に子育ての楽しさを感じています。その楽しさをなにか形にしたいと考えていました。でもなかなか自分ひとりでは進められないなと思っていたタイミングで、このプログラムに出会いました。

息子さんの成長がプログラムに参加するきっかけになったという綿本さん

思いがけない発見につながったいくつもの対話

酒井:全5回、3カ月間にわたるプログラムでしたが、どんなことが印象に残っていますか?

綿本さん:初回に行った、「自分がなににワクワクするか」を言語化していくペアワークが印象的でした。関連がないと思っていた事柄について、対話しているうちに共通項が見えてきて、最終的に自分がなにをしたいのかが見つかりました。

ライアンさん:初回の酒井さんによるレクチャーはすごく充実していましたよね。これだけでもう元が取れたと感じたほどです。

うつみさん:私も、初回で酒井さんに言われたことが印象に残っています。必ずしも起業を目指さなくてもいいとか、受講者同士で声をかけ合って個別に集まってもいいと言われたことで、「あっ、自由にやっていいんだ!」という感覚を持てました。

酒井:みなさんそれぞれに、初回のインパクトが大きかったのですね。

綿本さん:そうですね。また、回を追うごとに、自分のプロジェクトの「子どもの成長に寄り添うものづくりをする」というコンセプトが明確になっていくのを感じました。最終回に行ったワークでは、プロジェクトに対して近視眼的になっていた状態から、5年後や10年後を見据えることができました。

うつみさん:メンターのみなさんやほかの受講者さんからいただいたフィードバックは大きな気づきになりました。自分では見えていなかったものが明確になり、新しい視点が生まれたと思います。自分からほかの受講者さんにフィードバックを返すことも、大きな刺激となりました。毎回頭をフル回転させるのは大変でしたが、やり切ったあとは心地よい疲労感と達成感がありました。

ライアンさん:メンターのみなさんが、僕の考えを深く汲んでくださり、思いもしなかったいいところを見つけてくれたことも印象的です。あとはやっぱり仲間。こんなにおもしろい人たちばかりがよく集まったものだと思います。お互いの価値観を尊重しながら思考の核の部分まで話すので、仲良くなりやすいのかもしれません。

綿本さん:講座が終始いい雰囲気だったおかげで、みんな普段以上に饒舌になっていたように思います。お互いに相手のことをもっと引き出そうとして、自分のことも普段よりひとつ深い階層から話そうとしていました。

うつみさん:特に最終発表では、みなさん、自分の言葉で話そうとしていると感じました。社会人として十分経験を積んだ大人の口から、こんなにもピュアな気持ちを聞けるものなのかと、とても驚きました。それに影響されたのか、私自身も素直な言葉で、自分を出せたと思います。

プロジェクトは、未来を見据えて継続中

酒井:プログラムを通して、ご自身のアイデアやテーマはどう変化しましたか? また、ものごとの見方や行動に影響はありましたか?

うつみさん:私はプログラムをきっかけに、自分で本をつくりたいという思いが強くなりました。いまは神保町にある共同書店に棚主として参加し、自主制作したZINEや、仕事で装丁を担当した本を置いています。「ほやほや POP UP」では、その棚を再現しました。

うつみさんの『共同書店の棚再現』ブース

綿本さん:私は、なにかやりたいという気持ちを具体的な形にできるようになりました。私が始めたプロジェクトは、息子の成長に寄り添ったプロダクトをつくるブランドです。プログラムの最中には、手を振るのがマイブームの我が子のために、「if you see me, give me a wave(目が合ったら手を振って)」というメッセージをプリントしたTシャツを完成させました。旅行先で子どもに着せたら、たくさんの人にニコニコと手を振ってもらえたんですよ。

綿本さんがつくったTシャツ。息子さんが着用していたら、メッセージに応えてくれた人もいたそう

また第2弾として、子どもの“宇宙語”を記録するアプリもつくりました。「ほやほや POP UP」で来場者の方にそのアプリを触ってもらい、「子育て中にこういうのがほしかった!」という言葉をもらえたことも大きな収穫です。今後、受講者同士で一緒にものづくりをしようかという話が出ていることにもワクワクしています。

ライアンさん:僕はプログラムを通じて、この人と一緒に活動したいと思える人と出会えました。もともと友達や仲間づくりへの苦手意識が強いほうでしたが、今後も今回のプログラムのような方法で人と関わろうとすれば、うまくいくのかもしれないという手応えを感じています。講座のあとに飲みに行けたのも楽しかったですね。その人のバックグラウンドや大切にしていることを知る時間は貴重でした。

また、仕事でも仕事以外でもやりたいことがいろいろあるなかで、どういうバランスでやっていくのがいいのか、なんとなく掴めてきたことにも感謝しています。

酒井:ライアンさんは、今後どういうことにチャレンジしようと考えているんですか?

ライアンさん:現実世界にひとりでいるとき、スマホなどの画面を見なくても、仲間と一緒にいるような安心感を得られるものをつくりたいです。形態は、いまのところゲームアプリを考えています。そのために使う技術要素の見本として、「ほやほや POP UP」では、画面へのタップではなくスマホを叩いて操作するアプリを展示しました。今後は「自由研究的ビジネスのつくりかた」で描いた理想像の実現に向け、自分のスキルや経験を掛け算していきたいと思っています。

スマホの加速度センサーの機能を入力信号に利用するというライアンさんのアプリ

酒井:綿本さんは、今後チャレンジしたいことはありますか?

綿本さん:引き続き、いま進めているプロジェクトを少しずつ、途切れさせずに続けていきたいと思っています。「子どもの成長に合わせたものづくり」というコンセプトなので、次にこれをつくろうと事前に計画するというよりは、息子の成長から種を見つけて、それに合うものづくりができたらと思っています。

酒井:うつみさんはどうですか?

うつみさん:本にしたいネタをいくつか持っているので、どんどん形にしていきたいと思っています。また、おもしろい考えや体験を持っているのにカタチにする手段がない、そんな方の本づくりをお手伝いすることもやっていきたいです。

そして、本づくりも好きですが、ユニークな人に惹かれるという気づきもありました。「ほやほや POP UP」に来てくださった人の中にも本づくりに対して熱い思いを持っている方がいて。そういう人とつながりを持てて、共作できたらうれしいですね。

やりたいことを素直に見つめ直す「自由研究的ビジネスのつくりかた」

酒井:ありがたいことに「自由研究的ビジネスのつくりかた」への参加希望者はたくさんいたので、今後も開催したいと考えています。このプログラムに興味を持っている人に向けて、メッセージがあればお願いします。

ライアンさん:やりたいことがあるのに達成できないという、日々抱いている鬱屈が大きい人ほど参加してみてほしいです。

綿本さん:「なにかをしたいけど、どうやったらいいかわからない」「やりたいことがあるけれど、うまく言語化できない」という人に、すごく刺さるプログラムだと思います。ひとりで頑張るのではなく、誰かと一緒にゴール設定をして取り組む。そういう環境に身を置くのも、いつかやりたいことを温めている人にとっては、いいきっかけになるだろうと思います。

うつみさん:大学が主催しているのに、いい意味で大学らしくないプログラムだと思います。研究成果を出さなければならないとか、アカデミックに語らなければならないということは一切なく、飾らない素直な自分を次々と出せる場所でした。ぜひ、身構えずに参加してほしいです。

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