「beからはじめるライフデザイン宣言」第2回 開催レポート/私は、どんな自分として人とつながりたいのだろう?

やりたいこと(do)を決める前に、どんな自分でありたいか(be)を整えるための連続講座「beからはじめるライフデザイン宣言」。第2回は、『自己紹介2.0』の著者・横石崇さんをお迎えし、「私は、どんな自分として人とつながりたいのだろう?」というテーマでワークショップを行いました。

【ゲスト講師】
・横石崇さん/『自己紹介2.0』著者

【ナビゲーター】
・酒井博基/『ナラティブモデル』著者
・前田洋子/「ウェルビーイング100」編集長

自分を紹介する前に、自分を知る

横石さん:今日は「自分を紹介する」ことについてお話ししたいと思います。まず、僕は『自己紹介2.0』という本を出していますが、自己紹介が得意だったからではなく、苦手だったからこそ研究してまとめた本です。

酒井:「この本を書いた横石さん、自己紹介お願いします」と振るのは、ハードルを上げることになるのではと思っていました(笑)。

横石さん:少しドキドキしました(笑)。僕は「&Co(アンドコー)」という会社を10年ほどやっています。名前には、“誰かの一人目の仲間でありたい”という想いを込めています。

僕のキャリアの出発点は、自分にはつくる才能がないと気づいたことでした。デザインやアート、カルチャーは好きだけれど自信がない。そこで多摩美術大学の絵を描かない学科でキュレーションやアートプロデュースを学び、広告の制作会社を経て会社を設立しました。いまも、文脈やコンテクストをつくることを通じて表現している感覚があります。

僕がオーガナイザーを務めている「東京ワークデザインウィーク」は、「街を歩くと新しい働き方に出会える」をコンセプトに、勤労感謝の日の前後に渋谷を中心に開催してきました。いまでは大阪、九州、韓国・ソウルなどにも広がっています。

また、鎌倉の古民家を活用したシェアオフィスの運営や、法政大学などで講師も務めています。
渋谷区とは「渋谷スタートアップ大学」なるものも始めました。経営やファイナンスだけでなく、音楽、図工、道徳のような教科が並ぶ学びの場をつくりたいという発想から生まれた取り組みです。

さらに、渋谷ヒカリエ8階でシェア型書店「渋谷◯◯書店」を運営しています。棚を借りた人が、自分の好きな本を並べる「偏愛」をテーマにした本屋です。僕の娘も「あおちゃん書店」として棚を持ち、自分の読んだ本を並べたり、時には店番をしたりしています。本を介したコミュニケーションや小さな商売を楽しんでいるようです。

と、いろいろな仕事をしているのですが、僕の活動紹介はこの辺りにして、ここからは自己紹介の話に入りますね。

この会場にも世間にも自己紹介が得意な人は少なく、多くの方が苦手意識を持っているようです。自己紹介がうまくいかない理由は3つあります。自分を知らないこと、相手を理解していないこと、伝える技術が足りないことです。今日は「自分」に焦点を当てていきます。

編集者の佐渡島庸平さんは「自分は最高のコンテンツである」と語っています。実際、多くの人が自分について書き、語っている。岡本太郎さんは著書『自分の中に毒を持て』で、周囲に合わせすぎず、逆の生き方を選ぶことで自由になれると述べています。イチローさんは「人と競うという行為には必ず限界があります。でも昨日の自分を超える、少しの努力を日々繰り返すことなら、誰にでも継続してできます」と語っています。また、黒柳徹子さんは「人と自分を比べてなにがいいのって言ったんです。自分は自分です」と言っています。ジャンルの違う人たちが、自分について大切な言葉を残しているんですね。自分を伝えるのが苦手だと感じている人も、今日をきっかけに前向きに一歩踏み出してもらえたらと思います。

価値観と偏愛から、自分らしさを見つける

横石さん:これからやるワークは「価値観ワークシート」です。スターバックスなどの店舗や組織でも活用されているワークなので、やったことがある方もいらっしゃるかもしれません。36マスに、いろいろな価値観が書いてあります。このなかから大切にしている価値観の上位5つを選んで、特に大切でないものにはバツをつけて、チーム内でそれを共有していきます。

今日は簡易版としてやっていきましょう。それぞれ大切にしていることを3つ、それから、自分のなかではちょっと遠い言葉だな、大切じゃないなと思うものを3つ選んでください。それを、お隣の方とペアになっていただいてお互いにシェアしてください。
酒井さんが大切にしているものはなんでしょうか?

酒井:「誠実」「正直」「行動」ですかね。

横石さん:では、大切にしていないものは。

酒井:「結果重視」「効率」「卓越性」あたりはあまり気にしていないですね。

横石さん:という感じで、今日は直感で、お隣の方と30秒ずつシェアしてください。順番は服装が派手な方からスタートしてください。

「価値観ワークシート」を大切にしていることをシェア

横石さん:ありがとうございます。前田さんはなんでしたか?

前田:「連携」「成長」「感謝」です。

横石さん:36個の価値観から選ぶと、その人らしさが見えてきます。チームで行うとビンゴにもでき、組織開発の場でも使われています。今日はアイスブレイクとして体験してもらいました。

ではひとつ目のワーク「偏愛マップ」をやっていきます。これは自分が好きなものを可視化するワーク。シート中央に名前を書き、その周りに好きなものを自由に書いていきます。カテゴリー分けしても、イラストで表してもかまいません。過去に行った学生さんの例では、漫画や本などがイラストとともに描かれていました。

今日は短時間で、3〜4分のうちに25個ほど書くことを目標にします。イラストでも言葉でもよく、肩書きをいったん外して、直感で「好き」を出していくのがコツです。
前田さんが好きなものはなんですか。

前田:「猫」「読書」「料理」「歌舞伎」「ゴルフ」ですね。

横石さん:いま、5つのジャンルが出ましたね。歌舞伎なら屋号を書くだけでも、さらに数を増やせます。日記を書いている人は、比較的やりやすいという声を聞いています。

酒井:自分に向き合う時間があるかどうかが、こういうときに出るんでしょうね。

前田:案外、自分のことを考えていないことに気づきますよね。

横石さん:だから自己紹介は簡単ではないんです。ただ、偏愛マップには「偏愛マップハイ」があって、好きなものを書き続けるので、とても幸せな気持ちになります。

酒井:僕は書いているうちに「本当にそこまで好きかな」と慎重になりますね。

横石さん:珍しいですね。酒井さん、誠実ではあるけど素直じゃない(笑)。

では、書いたなかから「自分らしい」と思う好きなものを5つ選び、周りにシェアしてください。4人ずつ集まり、自分の好きなものを自慢していきましょう。順番は出身地が東京から遠い方からです。

靴、イケメン、旅、カメラ、眼鏡、小鳥、漫画など、さまざまなジャンルの偏愛について語る時間になった

横石さん:書き方に個人差があっておもしろいですね。偏愛をテーマに話すことで、仕事の話よりも自然に距離が近づきます。組織開発の場でも、こうしたワークが活用されています。
最近、応用神経科学者の青砥瑞人さんから、AI時代の「やる気スイッチ」について伺いました。人間の脳にはふたつのやる気スイッチがあるそうです。ひとつ目は前頭葉で、予測や計画に関わるもの。ふたつ目は脳幹付近の領域から生まれる探索や冒険、偏愛に関わるもの。子どもが砂場で夢中になって遊ぶときに活性化するのが、このふたつ目のスイッチです。AIに代替されにくい能力である一方、脳は使わないと衰えやすいとも言われています。

ふたつ目のスイッチを入れるには、「旅」や「本」が有効だそうです。計画を立てずに一人旅に出る、目的を決めずに本屋に立ち寄る。そうした行為が探索の感覚を呼び起こします。酒井さんは、そういう感覚はありますか?

酒井:使わないと退化するなら、ひとつ目のスイッチの方が動くかどうか心配になってきました。青砥さんは本も書かれていますか。

横石さん:本は3〜4冊出されていると思います。「DAncing Einstein」という会社で、特に子どもたちに向けた脳のアプローチをされています。

さて、「好き」の話をしてきましたが、その「好き」を仕事にしたい、またはすでにしている方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。ミシガン大学の2015年の調査では、好きなことを仕事にした人より、「好きではなかった仕事を好きになっていった人」のほうが、長期的には幸福度が高い傾向が示されたそうです。

この調査では、好きなことを仕事にした人を「適合派」、好きではない仕事に取り組むなかで成長した人を「成長派」と整理しています。適合派は時間とともに幸福度が下がりやすく、成長派はできなかったことができるようになる実感によって幸福度が高まりやすいとされています。

僕自身は成長派です。本当は絵を描く仕事をしたかったけれど、いまは違う形で意味づけしながらキャリアをつくっている。その感覚は、みなさんにもあるのではないでしょうか。もちろん「好きを仕事にする」ことを大切にする考え方もあります。今日は、その前提を少し揺さぶるデータとして紹介しました。

人生の山谷をたどり、その人らしさに出会う

横石さん:続いてふたつ目のワーク「ライフチャート」をやっていきましょう。横軸を年齢や時間、縦軸を幸福度として、人生をグラフで振り返ります。

幸福度が高かったときは上に、落ちたときは下に線を描きます。後で共有するので、山谷が見えるよう少し大げさに書いてください。ただし、書きたくないことや話したくないことは無理に書かなくて大丈夫です。出来事から書いても、先に線を引いてもかまいません。

酒井:どの期間で切り取るかによっても、グラフが変わってきますね。

横石さん:大学生にやってもらうと、コロナの時期をマイナスにする人が多いですね。社会人では、逆によかったという声もありますが(笑)。では、一番下がった時と一番上がった時を、4人グループでシェアしましょう。メガネが似合いそうな方からお願いします。

人によって書き始める場所も書き方もさまざま。会社での大変なプロジェクト、退職、学校でのつらい経験、家族のことなど、多様なプラスとマイナスが共有された

横石さん:シェアしてみると、ほかの人のマイナスの部分に心を動かされた方が多いのではないでしょうか。自己紹介は肩書きから入りがちですが、感情が大きく動いた部分にこそ、その人らしさが詰まっています。ライフチャートは、それを1枚で表せるツールです。

そして、グラフのラインがマイナスだった後にグンと上がっている人は、レジリエンス、つまり立ち直る力が高いとも言えます。多くの人のマイナスには、その人らしさや次のスタートにつながるきっかけが含まれているのではないでしょうか。酒井さん、前田さんはどうですか?

酒井:落ちてから、しばらく横ばいになる感じでした。とすると、僕はレジリエンスがないのかもしれません。

横石さん:おふたりとも、最後を見ると幸福度は高い状態ですね。会場にもそういう方が多かったように思います。有名人はキラキラした部分だけが注目されがちですが、多くの場合、その下にある経験があってこそいまがあります。肩書きや成功だけでなく、背景を見ることで、その人らしさが伝わってくるんですよね。

ここには新しいことに挑戦したい方も多いと思うので、ウェルビーイング研究者の石川善樹さんの話を紹介します。仕事には段階があり、20〜30代の仕える「仕事」から、40代の自分ごととしての「私事」、50代の志を持つ「志事」へと意味が変わっていくという考え方です。

20〜30代のハードワーク期、40代のブランディング期、50代の達成期へと進むなかで、逃げずに経験を重ねた人が次のステージに進めるのだと思います。酒井さんも、そうした体験を経ていまの活動につながっているのではないでしょうか。

酒井:ハードワーク期という言葉には反応しますね。そこを越えて40代があり、いまは少しずつ50代の“志事”が見えてきている感覚があります。

好き・得意を手がかりに、これからの仕事を考える

横石さん:今日は最後に「キャリアマトリックス」というワークを行います。好き嫌い、得意苦手の軸で、自分の仕事に関わることを整理してみましょう。

たとえば僕の場合、得意で好きなことは企画を考えること。嫌いで苦手なのはノルマのある営業です。一方、好きだけど苦手なのは絵を描くこと、嫌いだけど得意なのは交通費精算や経理作業です。

というふうに4つのマトリックスに、現時点で思うことを書き込んでください。できれば仕事に関わる内容がよいでしょう。その後、4人でシェアします。筆が進んだ方から、好きで得意なこと、嫌いで苦手なことを紹介してください。

好きなこととして、整理整頓、人のよいところを見つける、料理、人と話すことなどが挙がる一方、事務作業や調整作業、人前で話すことが苦手という声も

横石さん:みなさんの関係が一気に近づきましたね。次はまだ話したことがない方同士でペアになり、得意なことと嫌いなことを伝え合います。聞いた側は、直感で「向いていそうな職業」を無責任に提案してください。言われた側は、引きずらずポジティブに受け止めましょう。

お笑い芸人のマネジャー、コンサルタント、映画のプロデューサーなど、思いもよらない職業が提案され、歓声が上がっていた

横石さん:無責任に職業をすすめられると、意外な発見がありますよね。やってみた感想はいかがでしょうか。

参加者1:自分の好き嫌いを整理することができました。すすめられた職業はどれも自分にとっては斬新でした。

参加者2:以前にも先生やカウンセラーに向いていそうとは言われたことがあり、これは納得でした。初めて言われた芸能人のマネージャーは想像外で、新しい発見でした。

横石さん:宗教の秘書や芸能人のマネージャーなど、すごい変わり種も挙がりましたね。このシートをキャリアに照らすと、好きで得意なことで稼げるのが理想です。反対に、嫌いで苦手なことを続けるのは苦痛です。得意だけど嫌いなことは、できてしまう分、続けがちですが、心の集中力が続きません。キャリアづくりのポイントは、好きだけど苦手なことを工夫して、好きで得意な領域に近づけることです。好きだけど苦手なことには、その人らしさやキャリアのヒントが詰まっているのだと思います。

今日は「自分」について考えてきました。心理学モデル「ジョハリの窓」でいうと、他人は知っていて自分は気づいていない「盲点の窓」は、大人になるほど知る機会が減っていきます。肩書きなしでフラットに話す機会も少なくなるからです。

今回、シェアし合った仲間は、自分の輪郭をつくってくれる存在です。今後のシリーズでも、自分は気づいていないけれど相手は知っていることを意識して取り組むとよいと思います。

酒井:今日はノンアルなのに(笑)、深い話ができたのがおもしろかったです。短い時間でフレームワークを切り替えながら、「自分」と向き合い、「自分」を知るいい時間になりました。

前田:『自己紹介2.0』にある「分かるとは分けること」という言葉が印象的でした。今日は自分を分けることで、自分を理解する時間になったと思います。

横石さん:僕の本では、7つの「自分を分ける」方法を紹介しています。今日はそのうちふたつほどを体験してもらいましたが、「自分」にはまだまだ分けがいがあります。少しずつ「自分」を分かっていく作業は、とてもおもしろいものなのではないでしょうか。死ぬまで遊べる存在なのだと思いますね。

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